T-SQUARE Concert Tour REBIRTH

久しぶりにT-SQUAREのライブ。

新譜は追えてないんだけど、よりインストポップを志向した最近の方向性はこれはこれでいいんじゃないかと思っている勢です。ガチガチのフュージョンをやるともうそれ自体で古臭くなってしまう時代にあって、コンテンポラリーなインストゥルメンタルのイメージをあの手この手で維持しているのはなんだかんだ言って大変な話です。この2年ほどはそういう試行錯誤をちょいちょい感じて、一時期よりマンネリ感は薄れてますね。

追えてないと言ったそばからセトリは半分くらいが新譜の曲だったんだけど、ライブで聴いた感じだと、前2作よりは手の込んだことをせずにシンプルなインストポップをやっている印象。口ずさみやすい曲ばかり。変わり種はかなりコテコテなファンクグルーヴが効いてるChange by Changeぐらい。この曲では田中晋吾のベースソロをフィーチャー。 加入当時からそうなんだけど 、坂東慧の曲はドリーミーというかキュートというか不思議なメロディ感覚の曲が多い。最近はアルバムの半分ぐらいはこの人が書いているので、 段々とそういうカラーがバンドの音楽に浸透しているのを感じます。

旧曲に関してはフルート、アコースティックギター、ピアノのトリオによるPlay for Youが聴けたのは収穫と言ってよい。フルートでの演奏はビブラートがかかりすぎてなあと思わんでもないですが、いつぞやのForgotten Sagaよりはマッチしてたとは思います。伊東さんはそこまでソプラノ吹きたくないんだろうか。Again and Againは10年前に新曲として聴いて以来だし、DANS SA CHAMBREも同じツアーで聴いて以来ですが、このバンドの場合曲が多すぎて大して久しぶりとも感じなくなってきています。Again and Againは安藤さんのユニットであるところのanmi2の新譜に新アレンジで入っているようです。アンコールでは(定番のように見えてツアーでは意外とやらない)宝島なんかもありました。数年前までのEWI4000Sでの宝島の演奏は最悪の一言でしたが、伊東たけしがEWI1000に回帰し、坂東さんのビートもここ数年ズッシリ重めになってきたこともあり、なんだかCD版の印象に近くもある演奏でした(オリジナルはEWIじゃなくてTakecon-1なんだけど)。願わくばもう少しテンポを上げてドライブ感を出してもらいたい。白眉は2年前のアルバムに入っているMystic IslandとThrough The Thunderhead。Mystic Islandはブラックなビート、変拍子、独特のキメが強烈な超異色なナンバー。でもメロディは坂東慧らしいんだよね。難しいことをやっているのはすぐ分かるのに、ポップさ、音楽としての気持ちよさも両立しているという、このバンドだからできた近年の名曲だと思います。 ライブで聴くと、今までのT-SQUAREにない緊張感。中盤のソロ回しは更にスリリングだし、ラストは坂東さんがわけわからんドラムソロでキメる。かっこよすぎる・・・。その流れでのThrough The Thunderheadは、昔ながらのT-SQUAREっぽくもあり、バンド全員がソロを取るのでライブでより魅力を増す曲。この日の会場はおとなしかったけどここでようやく総立ち。いやー、珍しい曲聴ければいいなってノリで来たのに、思いがけず最近の曲にノックアウトされた感じ。2時間ぐらいでサクッと終わったけど、新曲中心の割にはいつになく充実してた今年のアルバムツアーでした。
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SETLIST

  1. REBIRTH
  2. Season of Gold
  3. Splash Brothers
  4. Trip!
  5. Little Violet
  6. SABANA HOTEL
  7. Play for You
  8. Again and Again
  9. Drops of Happiness
  10. Change by Change
  11. DANS SA CHAMBRE
  12. Mystic Island
  13. Through The Thunderhead
  14. 彼方へ
    (Encore)
    15.かわらぬ想い
    16.宝島
    17.TRUTH

Paul McCartney ONE ON ONE

唐突にポール・マッカートニーのライブを見てきた。
Untitledビートルズについては、唯一持っているアルバムはサージェント・ペパーズで、これは高校ぐらいのころから大好きなアルバム。なんでそれから広がらなかったのかというと、当時ビートルズのCDは1987年に初CD化されたものがそのまま出ており音質が大してよくなかったので、この時点ではほかのアルバムはリマスター盤が出るのを待ってたんですよ。そんで実際に2009年にリマスター盤が出たのだけど、結局買わずじまいだった。EMIが足元見た価格で出したのが悪い。

東京ドームの初日。19時ぐらいに開演だったらしいんだけど、いろいろあり15分ぐらい遅刻。東京ドーム1階。入ったら8曲目か9曲目ぐらい。なんだけど、ロックのコンサートなのにみんな座っているんですよ。この規模のライブ、この知名度のアーティストだと自分と同じような一見さんが多いんだろうなあ。アリーナはみんな立っていてうらやましい。とは言いつつ、一塁側からそこそこ見やすい席なので落ち着いて見るのも乙です。静かな曲も多いしね。ビートルズの前身、クオリーメンのナンバーから2010年代の最新曲まで39曲。曲数もさることながら、年代の幅広さもすんごい。ビートルズのファーストシングルであるLove Me DoやライブのオープナーだったA Hard Day’s Nightは、ソロとしてはこのツアーが初めての演奏だったとのことで、単純に数えて少なくとも半世紀以上ぶりというスケール。ふだん何年ぶりとか言ってるのがよくわかんなくなってくるよ。70年代のウイングスとかその後のソロの曲に加えて、そういう50年ぶりとかいう曲まで引き出しのある、歩く歴史みたいなライブ。自分もふくめて一見さんが多いので、やっぱりみんなが知ってるクラシックナンバーは盛り上がる。Hey Judeをはじめとして、シンプルで歌いやすいアンセムが多いなと感じる。ポール本人はベースにギター、ピアノを弾いたりといろいろ動き回って忙しいんだけど、昔の曲でもちゃんとハイトーンが出てよく通る。背筋もピンと伸ばして歌う姿がカッコいい。おじいちゃんすごいな。わかんない曲のほうが多かったけど、やっぱ存在がスターだ。9時半ぐらいまでやってたけど、ロックのライブらしくMCもそこそこにサクサクと曲が進んでいったので長いとは感じなかった。レジェンダリーアーティストのライブの空気は感じられて良かったんだけど、曲が少ししかわからんかったので、いちおうまじめな音楽ファンの端くれとしてはちゃんとビートルズぐらいはさらっておかないとなあ・・・

Untitled携帯に限って写真撮影OKだったんだけど、ライブの最中に自分で写真撮る意味がわかんない。

私を構成する9枚

2週間ぐらい前にTwitterのタイムラインでいくつか見たやつ。そういえば忘れてたけど俺CDを買い集めるのが趣味な音楽オタクだったし、そこそこ選べるじゃん?というわけで流行りに乗っかって選定。

2016-01-28 23.43.15

上段左Somewhere Called Home / Norma Winstone(1986, ECM)
ノーマ・ウィンストンとジョン・テイラーといえばアジマスだが、このアルバムはリード楽器が入ってるのがアジマスより好き(ケニー・ウィーラーが嫌いなわけじゃない)。ピアノ/ヴォーカル/リードという編成は永遠に聴いていけるフォーマットだと思う。泉に流れる水のようにすーっと耳に入ってくるウィンストンのヴォーカルとテイラーのピアノ、トニー・コーのクラリネット/サックス、それぞれが静かに深淵まで沁み込んでくる。至高の心地良さ。しょっちゅう寝る前に聴いてます。

上段中央The Jazz Composers Orchestra(1968, JCOA)
高校時代に読んだ(今はなんのライターなのかさっぱりわからなくなった)原田和典さんのジャズ本でセシル・テイラーの名演として紹介されていて、その記述がユニークで面白かった。それで実際に聴いてみると、その記述がまったく間違ってないのが余計に面白かったという。たしかにテイラーの手足は「蜘蛛と化している」としか思えないし、「全身から炎をむき出しにしながら」決闘を行っているにちがいない。そのくらい強烈無比な演奏で、今聴いてもその印象は薄れることがない。1970年代のフリー・ジャズのショーケースとしても聞ける。

上段右I Sing The Body Electric / Weather Report(1972, Columbia)
ジョー・ザヴィヌルがウェイン・ショーター、ミロスラフ・ヴィトウスと組んでやりたかった音楽-つまりSilent Wayの延長線上にあるもの-の完結。2ndアルバムにして、だ。ジャコのいるウェザー・リポートも楽しいけど、それはそれである。3者の音楽性が真正面からぶつかり合う様は、新しい音楽の形が次々と生まれていった70年代前半のカオスそのもの。実験室さながらのスタジオ録音パート、時代の熱を伝えるライブパートの両面で、そのダイナミズムが余すところなく味わえる。

中段左DIVE / 坂本真綾(1998, ビクターエンタテインメント)
自由でイノセントで何も背負うものがない坂本真綾がいい。この次のLucyで歌っているのはもう大人になった真綾だ。透明度99.9%ポップの1stアルバムよりややダウナーになって、個人的な好みは本来なら1stのほうなのだが、アルバムのラスト「孤独」と「DIVE」が自分にとって大きいんだな。ここで歌われるような痛みも含めて、なくしてしまってなお自分が忘れたくないものが詰まっている。ちなみに僕が一番好きな曲は「ボクらの時代」です。

中段中央On Broadway Vol.4 or The Paradox of Continuity / Paul Motian(2006, Winter&Winter)
見よ、耳の中を縦横無尽に駆け巡る昇り龍が如きこのクリス・ポッターのサックスを。我こそ21世紀のSaxophone Colossusであると言わんばかりのこの風格を。五感すべてを開放せんとするポッターのサックス、そこに絡むPooさんのピアノ、レベッカ・マーティンのヴォーカルとの相性は群を抜くどころか奇跡的なレベルと言っていい。それらをコントロールするモーシャンのパルスが絶対的な存在感を放つ。ただ辛口めのスタンダード集というだけでは終わらない。ジャズという音楽のもつ引力をこのアルバムは秘めている。

中段右Proverbs and Songs / John Surman(1997, ECM)
音響空間としてのキリスト教建築には、演奏されているのが教会音楽でないとしても、何か神聖なものを纏わせるような機能がある。ここで演奏されているのはジョン・サーマンのコンポジションによる聖書を下敷きにした組曲で、重厚なパイプオルガン(これまたジョン・テイラー)とコーラスに乗せてサーマンがあの素朴ながら雄大なトーンをソールズベリー大聖堂に響かせる。空間に漂う甘美な残響。ああこれがThe Most Beautiful Sound Next to Silenceなんだな、とECMをまず一つ理解した気がした18歳だった。90年代のECMは掘り出しものが意外とある。

下段左New Adventures in Hi-Fi / R.E.M.(1996, Warner)
R.E.M.にしてはフツーのロックをやっているということでなんだかあまり目立ってないアルバムな気がするが、とにかくサウンドメイクが素晴らしくて、僕の中のインディーロックのメルクマールみたいなものとなっている。アコースティックに振ったりラウドに振ったりという90年代のアルバムの中にあっていちばんニュートラルでバランス感覚があるし、このバンドの持つカントリー/サイケ・テイストもメロディとアレンジの中にストレートに表現されているように思う。ニュートラルでストレートだが、それでも全体に通底する重く浮かばない気分もまたR.E.M.らしい。

(インディー/オルタナでいうとRadioheadのThe Bendsも迷ったのだが、このアルバムにまつわる個人的な思い出が陰鬱すぎる故、カット)

下段中央Night Songs / Ferenc Nemeth(2007, Dreamer’s Collective)
クリス・チークとマーク・ターナーという2人のサックスの醸し出す不穏なトーンと着地点の見つからないまま浮遊し続けるフレージング、それにリオネル・ルエケの独特のポップ感をもったミュートギターサウンドが一捻りを加える。リズムもコンテンポラリーなアプローチでフロント隊に応じる。リーダーのフェレンク・ネメスのコンポジションも光るし、唯一自作曲でないのがウェイン・ショーターのE.S.P.だったりして、そこだけでもこのアルバムの宇宙遊泳的方向性が伝わってきたりもする。現代ブルックリンジャズの2006年時点での一つの流れを切り取ったショーケースであり、自分が考える「同時代性ジャズ」にもっとも近い形でもある。

下段右Bagatellen Und Serenaden / Valentin Silvestrov(2007, ECM New Series)

テーマとしては、タイムレス/エバーグリーンなマスターピースってところっすかね。死ぬまで聴け続けられるであろうこと、初めて聴いたときの感覚が思い出せること、印象がフレッシュなままであること。ちょっとは悩んだけど、だいたいは日頃聴いてる中で常々そう感じてきたアルバムなので、時間はかからなかった。まぁ、音楽ファンは廃業したとかなんとか言ったけど、このセレクションは自分の人生の積み重ねの結果であって、自分のアイデンティティそのものでもあるんだなこれが。自分が積み重ねてきたものがあって、それを振り返ることができることに嬉しさを感じるし、この9枚を選ぶことができる自分で良かったとも思う。だからやめるやめないではなくて、人生が続く限りこの9枚は更新され続けていくはず。去年10枚ぐらいしかCD買ってないけどな!むかし、よく見ていたジャズ系音楽サイトの掲示板にいた諸先輩が突如一斉にPerfumeにハマりフェードアウトしていったことがあったりして、今まさにわたくしもその段階にあると言えましょう。オタクは推し事に忙しい。んな感じで音楽こそすべての生活ではないのは確かだけど、でもまた戻ってくるよ。

にしてもモノクロジャケット多すぎだろ(笑)自分の撮りたい写真もこういうのですよということで。