Robert Glasper @ ビルボードライブ東京

ロバート・グラスパーのビルボードツアーを見てきたのでした。カジュアルエリアからなのでステージを見下ろしつつ。ジャヒ・サンダンスの呼び込みからバンドも登場。1曲目がハービー・ハンコックのButterflyで、そこからもう痺れてた。この曲をアルバムで取り上げてたのはだいぶ前だけど、メンバー・編成も変わってよりソフィスティケートされた雰囲気である。上手側ということもあってジャスティン・タイソンのドラムがよく見えて、緩急を巧みにコントロールしながら音楽の勢いを生み出していく過程が丸わかりだった。若さ溢れるところもあるし職人芸的でもあるのがすごー。終盤にグラスパーがKRONOSのCP音色でガンガンにソロを取っていたあたりはジャズプレイヤーとしての個を改めて感じさせて、ライブならではな場面。とはいえロングにソロを取ったのはここと、後半にNord Stageのリード音色でスーパーなソロを披露したあたりで、ローズでバッキングに徹したりボーカルを取ったりと、グラスパー自身はバンドリーダーとして他の3人を引き立たせる仕事が多かったのかも。バーニス・トラヴィスのベースソロのとこなんて客席側の階段で座って聴いてたり、自由気ままにステージが進行していた。

終盤は曲の切れ目なしで歌が繋がっていくし、ビートは変幻自在。飛び交うサンプリングがその瞬間瞬間で行われてることを巧みにビジュアライズしてくれていて、楽曲のパースペクティブを広げに広げる。この編成でのジャヒ・サンダンスの役割ってややもするとプレイに音を付け加えるぐらいに思われそうだが、実は一番最初に場を作っていて。この日はそこにグラスパーのローズが重なって、そのうえでトラヴィスのベースとタイソンのドラムが自由度を持ってプレイし、プラスでボーカルが入って、みたいな順番のレイヤー感が面白かった。そういう意味でもグラスパーはバンドリーダー然としていた。ラストは徐に聴いたことあるメロディが飛び出したと思ったらSmells Like Teen Spirit。バンドはまとめつつ自由にやらせて、それでいて自分も好きに弾いて歌ってっていうリラックス感が終始あって、その場で聴いててチルな時間だった。

グラスパーといえば、僕は以前「エクスペリメントはジャズ耳で聴けない」とかなんとかさんざん宣っていたのですが、Black Radioから10年あまりにしてグラスパーのライブに来ているという。時代が流れたなーという感じがする。それはなんというかグラスパーが今のジャズのアイコンであることを認めざるを得ない、みたいなネガティブな感じではなく、この何年かソウルとかファンクとかを通過するようになって普通にグラスパーの音楽を聴くのが楽しくなってきたからなんよね。グラスパーのエレガントなピアノも好きだ。その入り口ってそれこそ70-80sのハンコックなんかでもあったし、この日にButterflyを演ってたのは自分のそんな感覚を全部地続きにしてくれたなーと感じて1人でエモくなってた。

つぼぐち祭り 坪口昌恭&山下洋輔 DUO @新宿ピットイン

何ヶ月かぶりのピットインは坪口さん3DAYS最終日の山下洋輔との鍵盤デュオ。2人それぞれのソロピアノから、坪口さんはエレピでラテン風の展開。後ろだったから最初見えなかったのだが、本物のフェンダーローズを弾いてるのかと思ったら KORG KRONOSで弾いててびっくり。中音域の鳴り感がめちゃくちゃリアルで、曲の雰囲気もあいまって初期のチック・コリアみたいだった。山下さんは齢80を超えすっかりおじいさんになっていたが、完全即興パフォーマンスの強度は衰え知らず。生ピアノから繰り出される低音トーンクラスターの残響感が心地いい。

1stセットは坪口さんの心のアルバムという寿限無からの選曲、2ndセットはそれぞれのこれまでのレパートリーを中心に、という流れ。2ndセット初っ端に東京ザヴィヌルバッハのJackson Pollock Programが始まって、懐かしくて思わず声出たよね。これを鍵盤だけのデュオでやるというのは想像すらしてなかったけれど、原曲のコラージュ感をしっかり再現しつつそれを土台として自由な対話の空間が生まれていた。基本的にソロオーダーは決まっていて、2人ともお互いに好きなように弾かせるスタイル。原曲にサックスが入っていたらサックスが欲しくなりそうなところ、坪口さんのリード系音色がその役割を完璧に果たす。そのバックにモジュラーシンセの音色も飛び交って、熱と色彩にあふれた音像にいつのまにか飲み込まれていたようなかんじだ。

そこからのスタンダードMy One and Only Loveの流れにも唸ってしまう。老練にして闊達、円熟を極めた山下さんのピアノでこのメロディを聴けていること自体に感動ものである。あれだけフリージャズで鳴らしていた山下洋輔がある時期からオーソドックスな(フリーに振れる部分はあるにせよ)トリオでスタンダードを弾いているのはなんでなのか、自分が子どものころは不思議で仕方なかったけれど、それはむしろ自分のルーツとして軸として、いつの時代も持っていたものだったのだなと改めて実感するのでした。

今回はタイミング合わなかったけど次はOrtanceも聴きたい!

Snarky Puppy @ ビルボードライブ横浜

追加公演でなんとか取れてたスナーキー・パピーのライブ。だったのですが、秋葉原でアイドル見てから横浜に移動してビルボードに行ったので正味半分くらいしか見れてない()六本木だったらなーとは思ったがそれでも45分めちゃくちゃに濃い。直近作のEmpire Centralからのセットで、けっこうヘヴィなビートの曲が多い。ドラムス(ジャミソン・ロス)とパーカッション(ネイト・ワース)のコンビネーションによるグルーブがとんでもなく、グイグイ体が揺さぶられて仕方ない。あの手この手を繰り出してひたすらに熱を帯び続けていたロングなドラムソロも楽しかった。

あとこの日最高だったのはボビー・スパークスとジャスティン・スタントンのツインキーボードで、スタントンのフェンダーローズとスパークスのオルガン/クラヴィネットの応酬が爽快すぎた。アグレッシヴなフレーズをエフェクトをかけたクラヴィネットをただただ真顔で引くスパークスに痺れたし、かと思えば徐に立ち上がったスタントンのトランペットもクールでカッコいい。メンバーの引き出しの幅があまりにも広いんよな。マイケル・リーグはとにかく縁の下の力持ちに徹していた。今回は座席的にキーボードとドラムスが近かったので、次はリーグのプレイも近くで見たいところです。