3月24日の初日を観劇。伊波杏樹さんが出るということ以外に事前情報を入れないで観に行ったんですけど、いやしかし大変な舞台でした。
円形ステージを客席が取り囲む形で、舞台転換が2時間超まったくありません。そんな中での3人芝居というだけで普通じゃないのですけど、物語の展開と個々の演技もまた異様です。物語の導入部では、音のない空間に薄暗いムードだけが漂うなかで、ユジン・キムによるシンクレア・ゴードンに対する「インタビュー」が始まるのだけど、シンクレア=マット・シニアの中に存在する狂気と錯乱、混沌が、徐々に、次々と、あらぬ方向から顔を出しはじめて、たちまち重量感をともなう闇が場を支配するかのような感覚を覚えます。マットを演じる糸川耀士郎さんが(ただの一度も退場しないまま)2時間超のあいだ繰り広げ続けるサイコパシックな在りようは、しばらく脳裏から離れそうにないほど衝撃的。観る者に息もつかせない壮絶さがありました。それに翻弄されながらもなんとか食らいつくように、しかし視線は真っ直ぐにマットと向き合い「インタビュー」を続けるユジン=松本利夫さんの演技も光ります。ジョアンを演じる杏樹ちゃんは物語の鍵を握る存在として、さまざまな場面で舞台上にミステリアスな彩りを加えています。ミステリアスとは言うものの、ある意味でジョアンはただの少女ー子どもであるところが肝心で、その中に潜むイノセントな狂気の含ませ方はとても巧みなものでした。
事前情報なしで観たからか、頭をガツンと殴られたような感覚が持続していて、ただならぬ後味があります。ひとつの密室で展開される物語にもかかわらず、ひとしきり長く忙しい旅行にでも出て帰ってきたかのような。ステージが近い円形ステージであったことも、現実感と時間の流れを曖昧にさせる没入感に寄与していたと思います。去年のあいだはあまり気が乗らずとても久しぶりの観劇だったけれど、それを差し引いたとしても記憶に残る作品です。また観たいなあ。