あゝ 思ひ出のカロヤン・ステファノフ・マハリャノフ

鶴竜の初優勝、遠藤の上位挑戦、千代丸・千代鳳兄弟の活躍などいろいろ話題に事欠かなかった今年の大阪場所ですが、カロヤンこと元大関琴欧洲の引退は大きなニュースでした。

初日こそこれぞカロヤンという相撲で勝ち、それなりに期待を持ったものの、翌日からは力なく寄り切られる淡白な相撲、あっさりと前に落ちる相撲、最後には白鵬に投げられ手をついてしまいました。あの手は身体のどこかをかばったような感じですね。今場所は大関陥落の直接の原因になった肩のケガもあったと思いますが、それ以上に足腰の衰えが目に見えるレベルでひどく、考えれば先場所はよくぞ勝ち越したもんだと思います。三役を務められる力はもう残ってないとして、あとの選択としては小錦や貴ノ浪のように平幕でも取る手もある。しかしながら初場所に大関復帰を逃して、もうモチベーションも続かない状況にあったんでしょう、この時点で引退となりました。

引退会見で「最後に白鵬関とやれてよかった」と涙ながらに語ったのにはグッと来てしまいましたね。この2人、新十両・新入幕・新三役が近く、次の大関を争った時期もありました。10年前の平成16年は続々と期待の若手力士が関取になり、白鵬、安馬(日馬富士)、琴欧州(琴欧洲)、萩原(稀勢の里)、豊ノ島、琴奨菊と、十両の土俵にかなりの活況があったものです。この中の2人が横綱、3人が大関、1人が関脇まで実際に上がったわけで、黄金世代の一つかも。他にも露鵬や時天空も注目されてましたね。その中でもやはり琴欧州と萩原への期待ぶりはものすごく、幕下時代から「曙と貴乃花の再来」とか言われていました(今の遠藤と大砂嵐的な…)。白鵬が大注目されるようになったのはいきなり幕内で大勝ちしてからだったような。一時は新三役までは先んじた白鵬に大関争いで勝利し、飛ぶ鳥を落とす勢いの琴欧州でしたが、白鵬の大関昇進後は完全に水を開けられる形に。それでも、平成20年夏の初優勝は朝青龍と白鵬という二人の強豪を本割で連破しての優勝であり、記憶されて然るべきものです。琴欧洲と稀勢の里の明暗、琴欧洲と白鵬の明暗。結果的に、前者は分かれた後にある程度埋まり、後者は現役最後の土俵でもまざまざと見せつけられたということに。10年前に相次いで関取になった若手たちも半数以上が30代に差し掛かろうというところで、その一角である琴欧洲が引退したのを考えると、一つの世代の終わりが始まりそうな感じです。当時17歳だった稀勢の里も、残された時間はもうあまりないかもしれない。

相撲としては右四つ左上手で万全、2mの巨躯、猛烈な腕力があって、上手を引き付けての寄り、投げが強かった。が、大関昇進直後にケガをしてからというものの、頭を下げて中に入ろうとする小さな相撲になってしまい停滞。安美錦、豊ノ島、最近では栃煌山、松鳳山という苦手力士に毎度苦しめられたのもあって、大関としては47場所中11勝以上が2回だけという並の活躍に終わってしまいました。23年以降はケガが頻発して休場も多くなり、魁皇の引退後はすっかり「いつ陥落するのか」枠に入れられていた感があります。

思い出の相撲というと、何せ勝ちっぷりはあっけなく、負けっぷりは非常に豪快なため、いざ思い出すと負け相撲ばかりが浮かぶのですが、挙げるとすればすっかり昔で言う張出大関が定位置になっていた2年前の24年初場所13日目の相撲。相四つで、もはや圧倒的な実力差があり全く歯が立たないであろうと見られていた白鵬に対し、立合いで左前廻しをがっちり掴み、そのまま引き付け怒涛の寄りを見せて完勝した相撲を実際に国技館で見たのでした。ちなみにこの白鵬の敗戦で把瑠都の初優勝が決まり、騒然とした中での座布団の乱舞をよく覚えています。この場所は9日目の鶴竜が白鵬に初勝利した相撲も観ていて、座布団の舞がなんとも印象深い。

さて、しかしながら、2mの巨体ゆえの豪快な負けっぷり、強さを見せたあとの別人のような脆さもカロヤンの魅力の一つであるため、ここで思い出の負け相撲を紹介しましょう。

・5位 平成22年11月 白鵬戦
豊ノ島との決定戦を前に突き進む白鵬を千秋楽結びの一番で迎え撃ったが、立合い即左から投げられカツオのように土俵に叩きつけられるカロヤン。NHK藤井アナの名言「何事も無かったかのように優勝決定戦です」
・4位 平成21年5月 朝青龍戦
下手投げで完全にひっくり返され見事な大回転を魅せる。翌日白鵬の33連勝を止める大仕事を成し遂げるが完全に忘れられている。
・3位 平成17年9月 稀勢の里戦
圧倒的有利の星勘定で優勝争いを独走していたカロヤン。前日の朝青龍戦には敗れたもののまだ星の差1つをつけており、さらに相手が前頭16枚目の稀勢の里であり、好調とはいえ対戦相手でいえば横綱より圧倒的有利だったはずが、何も出来ずに力なく押し出され、結局優勝を逃す。
・2位 平成23年11月 白鵬戦
白鵬絶対有利と思いきやカロヤンが右四つ左上手、白鵬下手一本の体勢に。しかし一瞬で巻き替えを許し完全に懐に入られる。肩越しの上手一本でなんとか耐えるものの、最後は伝え反り気味の下手投げで豪快にブン投げられ、完全に白鵬に料理された形となった。
・1位 平成20年5月 安美錦戦
カロヤンが栄光の幕内最高優勝を飾った場所。11-12日目に朝青龍と白鵬の両横綱を一方的な相撲で圧倒し、もはや優勝間違いなしと見られた13日目の安美錦戦、安美錦の狡猾な(褒め言葉)立合いに完全に惑わされ何も出来ずに後退。覚醒したと思われていた矢先の平幕相手の完敗。やっぱりカロヤンはカロヤンだったのだ。翌日安馬に勝って無事に優勝したものの、スポーツ紙の話題は千秋楽結びの朝青龍と白鵬の土俵上での睨み合いに持っていかれるのだった。

なんというか、こう見ると存在感的には魁皇の後継であり千代大海の後継でもありますね。いろいろな意味で楽しませてもらいました。大関47場所という数字も、名大関と言うにふさわしいものでしょう。これからは親方生活ということになるんでしょうが、琴欧洲親方でいられるのは3年だけなので、武蔵丸みたいにどうにか株を確保しないとですね。まあ武蔵丸のときと違って、団塊の世代が次々退職して株が余っていますし、協会の公益法人化の影響もありますし、たぶん大丈夫だろうとは思います。何はともあれお疲れ様でした。

ちょうど1年前、靖国神社奉納相撲でのカロヤン&鶴竜。1年前、まだ2人は大関だった…
2013-04-05 13.29.03

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA