安藤正容 Farewell Tour T-SQUARE Music Festival

いつの間にかめっちゃ新しくなっていた

久しぶりに、というか毎回久しぶりなT-SQUAREのライブ。安藤正容さんの歓送ライブということで、センバシックス、THE SQUARE Reunion、T-SQUAREの3部構成の対バンみたいなイベントです。

センバシックス

センバシックスの演奏は元T-SQUAREメンバー2人を含む編成。センバシックスというのはレギュラーで活動しているのかと思ったらこの日のためのバンドだったらしいです。ヴァイオリンが入っているのがユニークで、楽曲もオリエンタルな雰囲気があって、エレメントとしてはマハヴィシュヌみたいな趣。リズムアレンジは仙波さんにしてはシンプルに乗れるファンク風味でしたが、ヴァイオリンとギターが織りなすメロディがなんとも言えず奇怪でクセになります。是方さんのジミヘン的な(というよりピート・コージー的と言ったらいいのか)ファジーにドライブするギターは良い感じにフュージョンっぽさが抜けていてかっこいいなあと。ふと周りを見れば、濱田遼太朗さんの師匠直伝の不思議なパーカッションや、フレットレスベース、やけにメロウなエレピなどなど、全員が全員なかなかのカオス。全体的にT-SQUARE聴きに来た人をちっとも相手にする気がないのが面白い(笑)

THE SQUARE Reunion

そんな第1部を受けてのTHE SQUARE Reunionは和泉宏隆フィーチャー…とはいえ和泉さんはこの場にいないので、全曲が和泉さんの楽曲ということに。席の空いたピアノにスポットライトを当てたままソロピアノ「宝島」が流れたときはさすがにしんみりしてしまいましたが…そこからバンドの演奏が入ってみると、やはりその親しみやすいサウンドに自然に身体が反応します。「宝島」から「OMENS OF LOVE」まで、珠玉という言葉がふさわしい名曲ばかり。本人のピアノを聴くことはもはや叶いませんが、遺してくれたものの偉大さに改めて感じ入ります。そして、則竹さん、須藤さんの演奏を聴くのも本当に久しぶり。「宝島」から「BREEZE AND YOU」「EL MIRAGE」と来て、やはり自分は則竹裕之の16ビート、須藤満のスラップベースで育ったのだなと思わずにいられません。まさに熟練の職人芸。また、伊東さんがしきりに「安藤”様”ともこれで最後です」と言ってましたが、「TRAVELERS」のコーダ部がギターとEWIが絡み合うオリジナル通りのアレンジになっていたり、「OMENS OF LOVE」のおなじみのギターソロなど、安藤さんと伊東さんのコンビも際立つ構成にもなっていました。バンド全体と呼応しながら勢いを増していく「BREEZE AND YOU」での佐藤雄大さんのピアノソロも忘れてはいけません。大バラード「TWILIGHT IN UPPER WEST」をライブで聴いたのは個人的に14年ぶり。そのときは和泉さんのピアノでした。思い出に溢れた曲たちを濃密な演奏とともに堪能できたことがシンプルに嬉しかったですね。

T-SQUARE

続くのはTHE SQUAREよりぐっとスマートでスタイリッシュなイメージの現行T-SQUARE。先ほどまでとは違った疾走感が「FLY! FLY! FLY!」「閃光」からあって、リズム隊の違いによるコントラストがくっきりと。この15年来ずっとそうですが、坂東慧の前のめりなほどにアグレッシブな、しかし正確無比なドラムスがこのバンドのカラーを決定づけています。どの曲でも面白いほどにフィルがスコーンとハマり、演奏のテンションが際限なく高まっていく。ユニットT-SQUARE alphaになることで、この強みもさらに先鋭化していくのかなと。去年バンドを退団した河野さんが入っての「Rondo」は、そんな魅力がてんこ盛りの名曲。河野さんと坂東さんの体制になってから数えきれないほど演奏してきたこともあって、楽曲の成熟度が一段違うレベルにあります。曲中、坂東さんと河野さんが何度もアイコンタクトを重ねながら演奏していて、この15年あまりで培ってきた関係性が窺えて泣けてきてしまいましたね。「Rondo」に代表されるように、純粋なフュージョンというよりはインストゥルメンタルポップ的指向を強くする近年の流れではありますが、「閃光」では安藤さんのロングソロあり、「Growing Up!」での全員ソロありと、それぞれのセッションプレーヤーとしての面目躍如といった部分も存分に楽しめる構成。やはり自分が実際に見てきたT-SQUAREの大部分はこの人たちなので、家に帰ってきたような感覚の第3部でした。

アンコールにはドラマー3人とパーカッジョニスト1人による恒例の「オレカマ」もありました。ソロイストたちが独自の世界を押し広げて生み出したうねりが、最後のテーマで見事なまでに収斂していく様が爽快そのものです。その後は全プレイヤーが揃ってのこれまた恒例「Japanese Soul Brothers」。ピアノソロが佐藤さんのシンセと飛び入り参加の白井さんのピアノのソロ回しになっていたのは新しい流れでした。ベースソロも須藤さん・晋吾さんと渡辺さんのスタイルが違いすぎて面白かった。中盤のソロ回しは2コーラスぐらいで割とあっさりでしたが、ここでも高橋香織さんのヴァイオリンがいいアクセントになっています。河野さんが入っているのも嬉しいですしね。最後はこの分厚いアンサンブルによる「TRUTH」で大団円。

安藤さんのフェアウェルライブとは言うもの、思ったより安藤さんが前に出る場面が多いわけでもなく、特段いつものライブと変わらない感じではありました。なんならいつものライブより安藤さんの曲が少ないまである(笑)まあひかえめな安藤さんらしいというところでしょうか。安藤さん45年間本当にお疲れ様でした。

ここまで書いておいてなんですが、この日は最前列で見ていたんですよ。伊東さんのサックスの音圧を肌で感じられたり、安藤さんや須藤さんの手技が間近で見れたり、なかなかない濃い体験をさせてもらったような気がします。本当はアイドル観に行く予定の日だったんだけど()T-SQUARE alphaも早いうちに観れればいいなー。

SETLIST

センバシックス

  1. GIVE ME UP
  2. MASALA ROAD
  3. DO-NESHIAN
  4. 夜の波うちぎわ
  5. 花火
  6. 梅肉エキス

THE SQUARE Reunion

  1. 宝島
  2. BREEZE AND YOU
  3. TWILIGHT IN UPPER WEST
  4. TRAVELERS
  5. EL MIRAGE
  6. OMENS OF LOVE

T-SQUARE

  1. FLY! FLY! FLY!
  2. 閃光
  3. Only One Earth
  4. Growing Up!
  5. Rondo

Encore

  1. オレカマ
  2. Japanese Soul Brothers
  3. TRUTH

降幡愛 スペシャルライブ 「Ai Furihata “Trip to BIRTH”」

年明けてからどこにも行っていなくて人間性が無になりかけていましたので、人間性を回復するには音楽しかないのだ、ということで降幡さんのライブに来てみました。去年ビルボードライブで最初にライブをやった時の評判は聞いてたので、生演奏をじっくりと楽しめたらいいななどと思いながら。一般でチケットを取ったのに座席が2列目だった。2月18日夜公演。

大元のコンセプトの時点で特定の音楽性を強く志向しているアーティストイメージ、みたいなものが正直得意ではないのですけど、降幡さんの場合はその振り切り方がある種清々しく、逆に楽しく聴くことができます。「真冬のシアーマインド」のビデオとか、もう面白すぎるでしょ。これは本人が好きだからできることであるなぁと思うわけで。わたし自身は1980年代をリアルタイムで通過した世代ではないのですが、音楽の原体験がザ・スクェア、ユーミン、森高あたりなもので、80年代的な仕掛けが聴こえると遺伝子レベルでつい身体が反応してしまうのはたしか。

ライブでもそういう方向性は一貫していたように感じます。リバーブのかかったヤマハDX(風)サウンドがまずもって1980年代感を強く醸成させ、硬質なビートとチョッパーベース(あえてスラップと言わない)、クリーントーンのカッティングに身体が自然に揺さぶられつつ、ボーカルに絡むようにそこかしこに挟まるオブリガートも痒いところに手が届きまくっており、生で聴くと尋常ではない爽快感。基調としてはそんなところですが、YMOみたいなオリエンタルフレーズが散りばめられた桃源郷白書とか、スカっぽいアップテンポリズムでサックスとオルガンが前面に出るYの悲劇みたいな、こってりになりすぎず飽きさせないエレメントもあり。Yの悲劇はライブ向きの振り付けもあって楽しめます。バラードナンバーに目を転ずれば、OUT OF BLUE 2サビでの熱いディストーションギターなんてお約束すぎて随喜の涙を流さざるを得ません。

また、加えてすばらしいなと思ったのはコーラスがいることで、メロディの重厚感によって80’sっぽさがさらに際立つ。そのコーラスのミキティさんがフロントに出てくる場面。ツインボーカル、しかもスタンドマイクという時点でカバーするアーティストがばればれ、ということでユニット「まばたき」として愛が止まらないを披露したり。オーラス真冬のシアーマインドに至り、降幡さんとバンド全員(キーボードのnishi-kenさんも!)でツーステップを刻み始めるところまであまりにコテコテ。降幡愛さん、お約束を果たしすぎている。

全体を通して何がいいのかというと、これだけの要素をしっかり消化した質の高いアンサンブルを間近で体感できるという安心感かなと。てんこ盛りの80年代エッセンスに対し、(マニピュレーターはいるにしても)不釣り合いなぐらいにシンプルな編成ですが、だからこそ出てくる音はそんなエッセンスを一塊にしたような凝縮感がありました。そして何より、降幡さんのステージ上での躍動がいいんですよね。普段着の彼女とはひと味違った、楽曲の世界に溶け込んだボーカルと佇まいは彼女の役者・パフォーマーとしての面目躍如たるものがあります。先に書いたように、好きだからこそここまで突き詰められるのだなーということがとても感じられるステージでありました。カクテルも引っ掛けていい感じにぐでぐでになりながら体動かせて楽しかったー。

SETLIST

  1. パープルアイシャドウ
  2. RUMIKO
  3. ラブソングをかけて
  4. 愛が止まらない 〜Turn it into love〜
  5. 桃源郷白書
  6. OUT OF BLUE
  7. Yの悲劇
  8. SIDE B
  9. ルバートには気をつけて!

Encore

  1. CITY
  2. うしろ髪引かれて
  3. 真冬のシアーマインド

音楽2020

毎年3月ぐらいに書き始めるのですが、家にいて暇なので今年はちょっと早かった(遅い)。いつも以上に自分の知っている周辺の音楽しか聴いていなくて、趣味の硬直を感じているのではあります。というわけで以下2020年に聴いていたあれこれの記録。

2019 / 2018 / 2014 / 2013 / 2012 / 2011 / 2010 / 2008

Dreamt Twice, Twice Dreamt / Ingrid Laubrock (2020, Intakt)

全く同じ曲をチェンバーオーケストラを加えた中編成とスモールコンボとでそれぞれレコーディングしたものを収めたダブルアルバム。1枚目はドローン的効果を醸すチェンバーオーケストラの色彩感と、現代音楽を通過したコーリー・スマイスの先鋭的なピアノとのコンビネーションが美しく、2枚目はサム・プルータのエレクトロニクスが音響空間を支配しつつ、イングリッド・ラウブロックをはじめとするソロイスト間の対話が複雑なコレクティブ・インプロヴィゼーションを形成する。各々の要素を見ればカオスだが、表象されるテクスチュアは非常に整然と澄んだものとして受け取られるあたり、ラウブロックの意図したサウンドコンセプト/デザインの巧みさに舌を巻く。大作ではあるものの、理詰め感が刺激的で心地いい。気が付いたら通しで聴いてしまっていることが多い気がします。

Recognition / Sera Serpa (2020, Biophillia)

いつになってもマーク・ターナーのテナーが自分を宇宙遊泳に連れて行ってくれる。恒星のようにカラフルであり、ブラックホールのように虚無的でもある。ピアノとハープが音像を張り詰め、サラ・セルパのヴォイスが幻影のように浮き沈み時には語りかけるかたわらで、ターナーがいつものように向こうの世界に行っている。ヴォイスとサックスが全く別の方向に向いていそうで、しかしとても親和性をもって響いているという、不思議な調和と均衡が聞かれる。サックス奏者というよりは、ひとつの特異なサウンドの担い手としての重要な存在感を改めて感じてしまった次第。

Hero Trio / Rudresh Mahanthappa (2020, Whirlwind)

2曲目に取り上げられているスティーヴィー・ワンダーの”Overjoyed“にやられてしまった。朗々としたメロディが変拍子の中で不穏さを孕んだまま続いていたのが、唐突に爆発し苛烈な演奏に変貌する。その移行があまりにもシームレスでスリリング。チャーリー・ヘイデンが”The Ballad of The Fallen” (1982)の最後の曲でやっていたようなシュールな諧謔味ではなく、シリアスに外側に向かい逸脱していく……というよりは楽曲のイメージを拡張していく感覚が楽しい。最初すっかり聞き流していましたが、1曲目のチャーリー・パーカーからこうなんですよ。全編カヴァーだからこその味わいのあるアルバム。

Color of Noize / Derrick Hodge (2020, Blue Note)

もはやメジャーアーティストになったデリック・ホッジだが、この人が作ったアルバムを聴くたびに思うのは「自分と音楽の趣味が似てるのではないか?」ということで、自分にとってはスッと入ってくるので、なんとなく吸い寄せられるように聴いてしまう。サウンドそのものも肌に合うし、ウェイン・ショーターの”Fall”を取り上げているのなんて最高でしょう。ツインドラムの強靭なグルーヴの波の上に、重厚かつ洗練されたツインキーボードのサウンドを敷き、ホッジのベースが自由に歌う。多元的な音楽的ルーツからなる複数の要素を凝縮して落とし込み、現代的なサウンドプロデュースを施した文字通りの「フュージョン」音楽が心地よい。

The Complete On The Corner Sessions / Miles Davis (2007, Columbia)

これはわたしが高校生のころに出たボックスセットで、当時めちゃくちゃ欲しかったのが今やSpotifyでいくらでも聴けるので、夏の間とかはこの(CDにして6枚にもなる)ダルく壮大なファンク楽曲集をただただ流していたのでした。マイケル・ヘンダーソンの泥臭く粘っこいベースリフとレジー・ルーカスのワウワウカッティングのサウンドが癖になり、それだけで何十分と聴いていられる。もちろんデイヴ・リーブマンやソニー・フォーチュンといった優れたソロイストのプレイも楽しめます。その中にあって、上に挙げた要素を全て飲み込み、垂直的なリズムを執拗に反復させながら、匿名化された音を重ね合わせた結果、まったく新種のトリップ音楽が出来上がってしまった”On The Corner” (1972)のセッションは極めて異質である(”On The Corner Sessions”と銘打たれているにもかかわらず)。これを若者向けのダンスミュージックとして作ったデイヴィスはおかしい。